星空の天使
「この星空には、神様がいるんだよ」と彼女が言った。
彼女はとても素敵な黒髪と、透き通った白い肌の持ち主で、その声はいつも極上の楽器を奏でたように美しく、そして儚く響いていた。
彼女が口にすると、つまらない政治の話でさえ、最高のクラシックのように聞こえた。
彼女はとても綺麗で、僕は彼女に夢中だった。
そして、彼女は僕の恋人だった。
彼女は続ける。夜空を見上げ、そこに白い吐息を残しながら。
「星空の神様はね、皆が安心して眠れるように、寝ないで見守ってくれてるんだよ」
寒い夜だ。彼女はコートの襟を寄せた。
僕は彼女に見とれてしまって、ただそこに立ち尽くしていた。郵便ポストのように真っ直ぐに。
彼女は歌うように続ける。
「でも、星空の神様は寝ないことに疲れたから、誰かに代わって欲しいんだって」
彼女の声は素敵過ぎて、どんな気持ちでそう言っているのか分からない。きっと誰にも分からないだろう。彼女は綺麗で、皆彼女に夢中なのだから。
「だから、神様は天使に星空を任せて眠りにつくのよ」
そう締めくくって、彼女は視線を落とした。神様がいるという星空から、僕らの住む地上へと。
彼女がマンションの屋上から飛び降りたのは、その次の夜のことだった。
空は曇っていて、とても寒かった。
僕は、彼女が天使になったのだと思った。
この星空で、僕らを見守ってくれている、天使になったのだと思った。
でも、神様だって疲れたんだ。いつか天使の彼女だって疲れるだろう。
そうしたら、次は誰が僕らを見守ってくれるのだろう?
彼女は素敵で、僕は彼女に夢中だった。