ハッピーエンドのその後なんて、いらないと思うの。

 子供の頃、女の子だったら誰でもこう思ったはず。
「将来はお嫁さんになりたい」
 私もそう思った。素敵な人を好きになって、その人と結婚する。
 でも、今は少しだけ違う。
 私は今、高校二年生。
 そろそろ、ハッピーエンドが欲しいと思う年頃。

 高校に入ってすぐ、私は一人の人に恋をした。背が高くて格好良い、優しい人。頭も当然良い。
 たくさんの人が彼に告白をして、振られてしまっていた。
 一年生の間、私はずっと彼のことを想っていた。
 二年生になっても、クラスは同じだった。そして、私は思った。
 そろそろ、ハッピーエンドが欲しいと。

 告白をしたのは、夕暮れの放課後。立っているだけで汗が湧き出そうなくらいに暑い日。
 夏休みの少し前のことだった。
 彼の部活が終わるのを待って、呼び止めて、「好きです」と告白した。
 彼は照れながら、「実は僕もずっと……」と返してくれた。
 これで、私の物語は始まった。

 夏休み。
 彼はほとんど毎日部活だった。私は毎日勉強をしに学校の図書室へ通った。
 夏休みなのに、一緒に登下校をして毎日を送った。
 一緒にプールに行った日に、彼と始めて手を繋いだ。
 恋愛映画を一緒に見た日、彼の方からキスをしてくれた。
 手を繋いで歩くのが普通になって、別れ際にキスをするのが普通になった。
 夏休みはそうやって過ぎた。

 二学期は、とても忙しかった。
 学園祭に体育祭。それと受験勉強が始まったから。
 彼も部活だけでなく、勉強も始めた。
 何の進展もなくて、辛かった二学期。
 でも、私の物語にはこんな試練めいた出来事も必要だと思った。

 冬になって、雪の気配がするようになった頃。
 街路樹が電飾の化粧で彩られる頃。
 そろそろ……
 ハッピーエンドが欲しくなった。

 彼の家。時間は深夜。当然両親は留守。
 私は照れながら「電気を消して」と言う。今にも消え入りそうな、細い声で。
 彼は息を飲んで、明かりを消す。ブラウスのボタンを外して、スカートを脱ぐ。
 衣擦れの音と、彼の手と、いつもよりずっと近い距離。
 痛みと、恥ずかしさと、それ以上の喜び。嬉しさ。
 ああ……!
 今、私の物語は最高のクライマックスに入っている。

 ラストシーンは、二人で。
 少し寒い部屋、一枚の毛布に包まって。彼に肩を抱かれて、私は……
「大好きだよ」
 彼の耳元で、そう呟いた。

 これで、私の物語はハッピーエンドを迎えた。だから……
 もう、ここで終わりにしようと思うの。

 暗い部屋の中、手探りで枕元を探す。彼はもう、ぐっすりと眠っている。私が少し動いたくらいじゃ目を覚まさないくらいに。
 窓の外は風が強い。少しだけ空が見えた。とても綺麗な星空。
 指先に触れたそれを、しっかりと握り締める。
 そして、二人の体温で温まった毛布から手を出して、大きく伸ばして……
 握り締めたボールペンを、真っ直ぐに振り下ろした。
 何度も、何度も繰り返して。
 何度も、何度も……
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……
 彼が動かなくなっても、繰り返し振り下ろした。

 ハッピーエンドのその後なんて、いらないでしょう?


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