夢の中で


 私には好きな人がいた。
 彼と他愛もない話をするのが好きだった。
 彼はとても優しい目をした人だった。
 でも、彼の一番は私じゃなかった。
「大好きなコとずっと一緒にいるのが夢なんだ」
 照れながら笑う彼に、私は寂しくなった。
 もしも私を好きでいてくれるなら……その夢をすぐにでも叶えてあげるのに。

 でも、彼の優しい目は私を見てはくれなかった。

 こらえきれない程に彼への想いがつのった頃、彼に恋人が出来た。
 私の知らない誰かが、私よりも早く彼に想いを打ち明けたという。
 私はとても悔しかったけれど、精一杯の笑顔で「良かったね」と言った。
 彼は今までで一番幸せそうに微笑んで「ありがとう」と言った。

 二人の付き合いが順調なのは、日に日に優しくなる彼の目を見れば嫌でも分かった。
 相手の女の子は、彼の一番になろうとしていた。
 私は毎日辛くて、それでも彼に逢いたくて、笑って欲しくて、彼の話す恋人のことを聞き続けた。
 苦しかったけど、幸せな日々だった。
 顔も見たことのない、彼の恋人。
 私はただ嫉妬するしかなかった。

「僕も彼女のことが好きになったよ」
 ある日彼が言った。
 夢を叶えたような、素敵な笑顔で。
 次の朝を彼が迎えることはなかった。

 そして彼はあれからずっと眠り続けている。
 他の誰よりも幸せそうな寝顔で。
 きっと彼は夢の中で、「大好きな恋人」とずっと一緒にいるんだろう。
 彼の優しい目を独り占めしたコを、私は羨ましいと思った。

 彼は今日も夢の中で夢を見続けている。
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