最後の一人


 世界が滅びるときに、貴方は誰と一緒に居たいと願いますか?

 ずっと考えていた。薄暗い部屋に一人きりで。
 世界はもうすぐ滅びる。それは紛れも無い事実だ。誰もが諦め、嘆き、苦しみ、悲しみ、そして「嘘だろう?」と逃避した。
 リミットまで、もう少し。今では誰もがこう言っている。
『誰と一緒に終わる?』
 街中は割りと平穏で、今までとほとんど変わりない。むしろ、以前よりもずっと優しい感じがした。
「最後だしね」
「そう、最後だし」
 誰もがそう言い合って笑っていた。だから僕は部屋に篭った。
 その最後に、僕は誰と一緒に居たいのだろう?

 まず初めに思い浮かべたのは、両親。でも、父と母の間に入るのは違う気がした。
 僕は確かにあの二人の子供だけれど、あの二人の間には入ってはいけない気がした。
 最後の瞬間は、二人で過ごすべきだ。

 次は、友達。仲間と言い換えても良いかもしれない。
 バカ騒ぎをしたり、ちょっと体験出来ないようなことをしたりした、大切な仲間たち。
 でも、奴らにだって特別な誰かがいる。
 最後は、そういう誰かさんと一緒に過ごすべきだ。

 特別な誰か。僕にだってそういう人はいる。
 分かりやすく言うと、恋人だ。
 でも……
 彼女のことを思い出して、僕は悲しくなった。
 彼女は、世界が終わるということを何かのイベントだと思っていたのだ。
 とりかえしがつかなくなって、初めて焦りだした。
 まるで夏休みの宿題を残してしまった小学生のように。
 そんな彼女とは、一緒にいられない。

 そして、僕は一人になった。

 正直言って、とても寂しい。世界の最後を孤独に迎えるなんて、我慢出来ない。
 それじゃあ、僕の短い人生の意味も価値もどこにも無くなってしまうじゃないか。
 もっとも、終わる今になってそんなものを探しても仕方ないのかもしれないけれど。
 でも、僕は……
 僕?
 そうか、僕は、この最後の瞬間に……

 こんな下らなくて情けなくて惨めな、『僕自身』と一緒にいるんだ。

 世界が滅びるときに、貴方は誰と一緒に居たいと願いますか?

inserted by FC2 system