騎士の忠誠


 ずっと、憧れていた。
 物語の中にしか存在しない、悪を倒し、弱き者を守り、たった一人に忠誠を誓い、大切なもののために命を投げ出せる
 騎士に、憧れていた。
 でも、現実にそんな者は存在しない。
 弱い者を守ろうとするのは、
 強い者のエゴでしかない。
 そう、思えてしまったから。

 大切なものを守るには、斬らねばならない。
 自分の聖地を害する、全ての敵を。
 でも、その先に何が残るだろう?
 両手は血に染まり、剣は折れ、鎧は錆び、馬は疲れ果て……
 誰にも罰せられることのない、殺人者の重荷を背負う。
 人を殺したことで栄誉を得る
 命を奪ったことで名声を得る
 それは、立場が違えば
 ただの、大罪人にしかならない行いだというのに。
 ただ、殺し続けただけなのに。

 そこまでして守りたいものがあった。
 どんな咎も受け入れ、罰も恐れず
 そのもののためなら、永久に煉獄に焼かれようとも
 そこまでして、守りたかった。

 いつか、裏切られる日が来ても

 騎士と、呼ばれた。
 影では狂気の殺戮者とも呼ばれた。
 構わない。あの人を守れるなら、それでも構わない。
 騎士とは、殺し続ける者。
 守るために、毀す者。

 返り血に染まった全身を、紅の陽が照らし出す。

 忠誠を誓った主君のためなら、自分すら裏切ろう。
 守るべきものを毀し、守り続けた者を殺そう。
 ただ一人、忠誠を誓った主君のためならば
 血よりも濃い絆で結ばれた盟友にすら、刃を向けよう。
 例え、誰も理解してはくれなくとも。
 反逆の騎士の汚名を、死してなお負おうとも。
 主君に背中から斬られたとて、構わない。
 今まで、殺してきたのだから。
 毀して、殺して、奪って……
 そして、守り続けてきたのだから。
 主君よ、貴方は分かっているだろうか?
 そうして守られた貴方の身には
 血の匂いが染み付いて取れない。

 主君に断絶され、この背に刻まれた傷は消えず
 守るべきものを失い、騎士の称号すら無く
 日々の糧さえ得られず、泥をすすって生きてもなお
 分かるだろうか、主君よ。
 貴方に仕えた、今なおこうして仕えている
 騎士の忠誠が。

 剣は錆び付き 鎧はひび割れ
 国を失い 貴方すら喪ってしまっても
 それでも
 騎士ではない騎士として
 永遠に忠誠を誓っている。


inserted by FC2 system inserted by FC2 system