空を飛ぼう、その背に負った翼で。
 きっと、君はそのまま大地に叩き付けられてしまうだろう。
 それでも、飛ぼう。
 どこまでも高く。遠く。
 街を、人々を下に敷いて、
 純粋な青と交じり合おう。
 そして、落ちる。
 赤い絨毯になる。
 人間なんて所詮は動く血袋。
 少し派手に叩きつければ、破裂してしまう、
 脆い血袋。
 白い翼に祈りを込めて、
 自由を思い浮かべながら、
 孤独に耐え忍びながら、
 それでも羽ばたこう。
 人は人。
 鳥にはなれない。
 だから、落ちて行く。
 でも、飛ぶ。
 愚にもつかない行為の繰り返しの後には、
 何が残るの?
 所詮は動く血袋なのに。
 腐りかけた肉隗なのに。
 眩いばかりの可能性だから。
 神さまはどこにいる?
 とてもじゃないけど、奇跡なんて起こせない。
 そんなに暇じゃないだろう。
 そこにあるのは無限の虚無。
 どこまでも虚ろな未来。
 でも、
 空へ……
 風が冷たいよ。でも、気持ち良い。
 いずれ大地を踏みしめ、言おう。
「やっぱり地面が一番落ち着く」
 だったら飛ばなければ良いのに。
 飛んでしまうのは、なぜ?
 本人は飛んでいるつもりなのに、
 鶏のように駈けずり回るだけ。滑稽に。
 そんな人生なら、いらない。でも、それでも良いかもしれない。
 理由なんて要らない。
 言葉は届かない。
 祈りはただの虚構。
 自由は幻想。
 翼は、背中にあるのに
 羽ばたくことも忘れているのは、なぜ?
 怖い?辛い?痛い?哀しい?
 だったら尚更飛ばなくちゃ。
 がむしゃらに、しゃにむに、無茶苦茶に、
 縦横無尽に、自分勝手に、自由気ままに。
 そして、落ちる。
 もう動かない血袋になる。
 壊れたブリキになる。
 いらない歯車になる。
 そうなる前に、高く、高く、もっと高く、舞い上がれ。
 酸素も無くなって、大地に帰れなくなる程に、登り詰めろ。
 そして、輝かない星になる。
 誰の目にも写らない、点。
 赤と青と白と黒と茶。
 小学校の写生大会で、水彩絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような、
 統一されていない、モザイク。
 それで良いじゃないか。
 人生は弾けて消える。濁って見えなくなる。
 近くて遠い。
 そこにあるのは一対の翼。
 真っ白な、フェザーの集まり。
 作り物じゃない、自前の翼。
 黒くても良い。むしろ、それが良い。
 闇夜を飛ぶには最適だろう。
 終わりは考えずに、何処へ行く?
 朝日から逃げる様に飛ぶのか?
 明日から逃げる様に飛ぶのか?
 何処へ行っても一緒。
 結局は、血袋。緑の血袋。
 そして、そこから芽が出て、森になるまでは
 一瞬だろう。
 誰も知らなくても、そこには森が出来る。
 腐った死体を栄養源に、木々は生い茂る。
 やがてそこには鳥がやって来て、囀る。
 そんな君の物語を、コミカルに。リズミカルに。
 それで良い。それが良い。
 だから、落ちると分かっていても、飛べば良い。
 何一つ役には立たず、無駄にはならないのだから。
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