雪が、降っている。
 音も無く、無常に 町を 白く覆う。
 昔はこんな夜が嫌いだった。
 寒いだけだったから。
 今も寒いのは嫌いだ。でも、
 その寒い中で突っ立ってタバコなんか吸っていたりしている。
 ジンジン痛む頭を押さえながら。
 寒さをじっと耐えながら。
 こんな夜には散歩をしたくなる。
 コートを二枚着込んで、帽子を被って、手袋をして、一人で。
 ぼんやりと浮かぶ自販機の光に誘われ、あたたかいコーヒーを買う。
 何の意義もない、散策。
 あの頃の苦しみを思い出す。
 今の俺は変われただろうか?
 あの頃の俺の痛みを癒せる言葉を紡げるだろうか?
 同じ痛みを繰り返してはいないだろうか?
 雪が、降る。
 音も無く、無常に 俺を 灰色に塗り潰して、
 明日の朝の憂鬱さを思わせる。
 舞い降りるのならば、あの歌のように チャンスでも降ってくれればいいのに。
 この雪を見つめている人が、もしも俺と同じ苦しみを抱いているのならば、
 それを消せるようになるには、どこまで行けばいいのか?
 一緒に苦しめるようになるには、何をすればいいのか?
 伝えることは出来ない。今のままの高さでは。
 もっと、もっと、
 この降り積もる雪の大元よりも、もっと高く上り詰めなければ、意味が無い。
 全ては無為に終わってしまう。
 雪が、積もる。
 響く音は、何処までも伝わる。
 俺の声は、響かない。
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