伝えたい言葉を
伝えられないもどかしさが
原動力になるのならば、
満たされてしまうことは
あまり良いことではないのだろうか。
全てを手にしているから
何もする必要が無いのか、
全てを手にしたいから
何でもするのか、
分からなくなってきた。
理由が必要なら、
創ってしまえば良い。
どんなに通らない理屈でも、
押し通せば良い。
もやもやしたものが、
振り払えない。
どこから来て、何処へ行くのか?
考えている暇はない。
やりたいことをやる。
そんな当たり前のことが、
こんなにも難しいなんて、
考えたこともなかった。
日が昇る。雲が晴れる。
風が駆け抜ける。
何処から来て、何処へ行くのか?
自分のことほど分からない。
もう、諦めてしまうことも出来ない。
戻る道は無く、進む道は用意されていない。
切り開くのが定めならば、
逆らいたくなることもある。
それでも、満たされないままに
何時までも走り続ける。
声が聞こえる。懐かしい声が。
耳馴染んだ、僕の心に触れた人の声。
もう届かないと思っていたのに、
今、こんなにもはっきりと聞こえる。
泪が弾けて、元に戻ってしまった。
忘れることが罪なのなら、
僕は大罪人だろう。
思い出すことは出来ても、
覚えていることすらままならない。
転がる石のように生きている人が、
僕に語りかける。
「決められたことなんて、一つも無い」
だけど僕が決められたことなんて、一つも無くて
選ぶことすら許されなかった時代があった。
ある日、急に
「大人なんだから」
と言われても、どうしていいか分からなくて、
与えられることも無くなって、
得られたものは、
傷痕と苦痛と恐怖。
無邪気な子供のままでいられないなら、
子供の頃の記憶なんて
消えてしまえばいいのに。
今と過去との落差が、
永遠に僕を苛み続けていくのなら、
このままここで終わっても、
誰が僕を責められるだろうか?
他人の言葉に価値が無くても、
他人の言葉は傷を与えてくれる。
いらないものが多過ぎて、
僕は記憶を引き裂いた。
大事な気持ちも引き裂いて、
自分の思いは消え去った。
あの人の記憶だけが残り、
あの人の顔も思い出せない。
伝えた言葉も思い出せないのに、
今では後悔が残るばかり。
愛していた、とは思えない。
それほど大事にはしていなかった。
僕が大事にしたものは、
何故か皆壊れてしまうから。
もやもやしている思考回路が、
いつか焼ききれてしまうことになっても、
僕はきっと変わらない。
今のままの僕でい続ける。
それしか決められなかったから。
それすら許されないのなら、
僕は何も出来なくなる。
先の事は考えたくない。
ただ、闇だけが居座っているから。
現状に満足していられない。
心に隙間風が吹いているから。
誰もがこんな時間を抱えて
夜を走り抜けるのならば、
誰も朝を迎えられはしないだろう。
朝を迎えてはいけないだろう。
夜明けが近付いて、
空気が新しくなっても、
ここに光は届かないのだから。
絶望している訳じゃなく、
本当のことを知ったつもりでいるだけ。
この闇を切り裂けば、
僕も切り裂かれてしまう。
そして、新しい僕が生まれる。
新しい僕は、今の僕のことなんて
さっぱり忘れてしまうから、
生まれ変わりなんてしたくない。
引き継がれる思い出が選べるのなら、
辛いことを覚えていたい。
楽しい思い出は、今の僕だけのものにしたい。
辛い思い出は、忘れる価値も無い。
何も無い。恐いことなんて。
あの時、僕が死ななかった理由が
決められていないから、
僕が自分で決めた。
あの時、僕の全てを奪えたはずだ。
たった一秒の空白で。
それすら与えられなかったのだから、
僕は許されているのだろうか?
そう、思いたい。
日々、壊れていく心と身体が
僕に強く命じる。
でも、従えない。
それは僕の意志じゃないから。
流れる川のようになりたい。
誰の目にも触れず、ただそこにいるだけの。
変化は遅々としていて、
常に監視していないと分からない。
誰もが気にするわけでなく、
誰かに何かを求めることもなく、
ただ、流れる川に。
一人なら良い。
二人ならもっと良い。
皆と一緒なら言うことは無い。
素直に、そう言おう。
それすらも許されない世界だとは、
思いたくないから。
少なくとも、時代の流れは
それを望んではいなかったはずだから。
自由でなくても、構わない。
許してやると、一言言って欲しい。
それだけでも、随分気が楽になる。
隙間風も、弱くなる。
時折耳に届く音は、
弱々しくて、儚いけど、
僕の記憶には刻まれた。
いつか壊れてしまっても、
きっとまた届くだろう。
届けてくれるだろう。
あの人の顔が思い出せない。
伝えられない言葉が、溜まっていく。
やがて僕は、この思いのせいで終わってしまうだろう。
決められたことなんて無くても、
決めることは出来たはずだ。
何処へ行っても付き纏うなら、
いっそ最後まで付き合って欲しい。
見届けてくれるなら、
それだけで良い。
言葉をくれなくても、
温もりを分け与えてくれなくても、
傷を押さえてくれなくても、
痛みを消してくれなくても。
貴方の居ることが、
僕には何よりも嬉しいことだから。
どうにもならないことばかりが、
どうしても引っかかるなら、
いっそ諦めてはどうだろうか?
少しは気が楽になるかもしれない。
時には自然に戻ることが
必要になるかもしれないから。
休む場所なんていくらでもあるだろう。
ただ、腰を下ろすだけでいいのだから。
そこには、何も用意されていないけど、
休む位は許されるだろう?
だから、今はそれで良いんだよ。
もどかしさを抱えたままで、
少し落ち着いてみればいい。
本当の自分の声が
聞こえるかもしれないだろう?
じゃあ、僕は行くよ。
もう、君とは会えないかもしれないけれど、
今日は楽しかったよ。
さようなら
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