なんというか――
俺は、書くということを必要以上に重く考えているのかもしれない。
焦燥にかられ、無力感と将来への不安の中で
俺は書くということを覚えた。
鮮烈な刺激と、至上の充実感。
今まで経験してきたどんなことよりも
満たされる ということを知った。
そして、その衝動が破裂する直前で
絶望を知った。
この世界には、俺を助けてくれるものなんて無いと知った。
本当のことなんて、現実の世界では屑のようなものだと知った。
いつでも、やったモン勝ちだということを知ってしまった。
それは、絶望だった。
自分で自分に言い聞かせる。
「俺はまだまだ、こんなモンじゃない」
でも、無意識では分かっている。
『世界は絶望で構築された、偽りの夢だ』と。
一片の救いもない、絶望。
その中にあって、俺は書き続けた。
呪われたように。縋り付くようにして。
そして、初めて誰かが俺を認めてくれた。
俺の罪と絶望を知らない誰かが、俺の生み出した理想と夢を認めてくれた。
歓喜した。そして、同じくらい絶望した。
俺の書いた物には価値はあるかもしれないが
俺自身には、価値なんてものは無い。
分かっていたのかもしれない。
俺は、書くということを愛し、そして
呪った。恨んだ。憎んだ。
この感情を、何と言えば良いのだろう?
書く、ということは俺にとって
未来に続くための手段であると同時に
自分の過去と、現在の自分自身を切り裂く刃なんだ。
書く度に満たされ、夢を見る。
書く度に絶望し、終わりを望む。
書くということは俺にとって、軽いことじゃない。
命よりも重い、自分の存在を賭けた戦いだ。
――ずっとそう思っていた。
それが間違っているとは思わない。でも、今は――
もっと自然に書いてみようと思った。
あの、思春期の頃、微かに夢見た儚い望み。
「俺の書く話で、次の世代が少しでも多くの選択肢を持てれば良いな」
そんな、純粋なだけの青い望み。
今、俺の書いた話を読んで声を聞かせてくれる人達がいる。
貴重な時間を割いて、真摯な気持ちで意見を言ってくれる人達がいる。
こんなに嬉しいことはない。
俺は確かに無価値で、下らない屑みたいな奴で、罪人で……
でも、だからこそ、俺の書く話には価値があるんだよと言ってくれる人がいる。
それと、俺個人のことなんて知ろうともしないのに
俺の話だけは読んでくれる人も。
価値を探求するのなら、無価値から初めるべきだ。
無価値な俺が生み出す、価値のある話。
価値を生み出すことの出来る、無価値な俺。
その繋がりだけは、この絶望に満ちた世界でも
信じることが出来る。
だから俺は書く。
重苦しい覚悟と、自分を縛る幾つもの誓いを振り払って
「書きたいから」というシンプルな衝動の矛先を
俺の中から湧き出る物語に向けて。
その先にある、ほんの小さな輝きに向けて。

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