言葉を

言葉にどれくらいの意味があるのか
僕はいつも迷っていて
書くしかないとは分かっているのに
手はいつも止まる
誰かと向き合ったときにだけ言葉はあふれ出て
でもそれは結局都合の良い理屈でしかなくて
理想論でしかなくて
僕は言葉を紡ぐ度に
惨めな気持ちを味わう
止めてしまえれば幸せなのだろうかと考える
止められるのだろうか?
それと、僕は幸せになりたいのだろうか?
楽にはなりたい
何も考えずに ただ楽しむだけの
それだけのものになりたい
けれどそれは多分、とても虚しくて
だから僕はいつも苦しくて
楽になるためには
苦しんでも書くしかなくて
その度に 言葉を見失う
探しているものが何なのか分かるはずもない
そもそも何も探していないのかもしれない
ただ、探している振りをしていたいだけなのかも
出たはずの答えすらすぐに消える
幻と消える
一つの答えに頼れるほど真っ直ぐにはなれない
ふらふらと頼りなく
右へ左へと揺れる 振り子のように
真昼の月のようだと言われた
誰も見向きもしない
在ることにすら気付かない
輪郭すら朧で
照らされることもなく
輝けない月
惨めなのだろうか
それともそれが理想なのだろうか
僕はどう在るべきなのだろう
そんなことすら決め付けることも出来ない
答えなんていつだって自分勝手なのに
自分勝手に決め付けてそれで良いはずなのに
誰の背を照らすことも出来ず
光をその身に受けることすら出来ない月なのなら
僕は何を想えばいいのだろう
それでも眼下の幸せを祈るのだろうか
幸せになれない僕は
それを羨むしかないのだろうか
祈りすらも誰にも届きはしない
輝けるのなら、それは夜
誰もが眠った後にのみ輝く
眠れぬ夜に嘆く人をだけ
照らす
でも、眠れない夜に誰が月を見上げるというのだろう
眠れない夜は
布団の中で寝返りを繰り返すしかないというのに
言葉の意味なんて僕は持っていない
あるとしても、誰にも届かない
それを嘆く必要が、今更どこにあるのか
分かっていて歩いて来た道じゃないか
満月を背に負い、それでも夜空に星を探して
かすかに伸びる自らの影を
踏みつけるように歩いて
何度探しても
夜空に星なんてないのかもしれない
あったとしても
それはとても小さくて 遠くて
その輝きは僕を照らすには弱すぎて
瞬きをするだけで見失ってしまう程に
弱い 僕はとても弱い
何物にも左右されない強さが欲しいと思った
同時に
あらゆる全てを受け入れ、自分を変える柔軟さも
欲しいのだと
何もかもを欲しがる僕は
真昼の月なんかじゃない
暴君でしかない
目に映る全てを欲して
その癖、何も見えていない
誰かのための何かなんて
持とうともしていない
愚かな、暴君でしか
変わることが出来ないのなら
そこで終わるしかないと言ったこともあった
だったら僕自身がもう終わるべきなんだ
それでも惨めに諦められず縋り付くのなら
格好なんてつける必要なんてもう ない
惨めなままでいい
それで構わないじゃないか
誰に理解されずとも
誰に伝わらずとも
意味すらなくても
ただ 言葉を 紡げば
その立場に立てるなら
僕はそれでいいのかもしれない
まだ僕はそれでも
何かに縋ろうとしているのだろうか
諦めきれずに いるのだろうか
それこそ、惨めだ
ここで終わるべきだ
変わるなら 変わってしまえるなら
自分を認められないのなら
好きになりきれないのなら
逆になれば良い
認めず嫌いそのままに
全てを受け入れて
死ぬまで惨めに足掻けば
言葉を紡ぐ意味なんてもういらない
止まった指先を握り締めて
また 解いて
暗い心のまま
光を文に描けば

けど、描いた言葉の輝きは失われる
僕にとっての輝きはきっと
誰かにとっての闇で
みんなにとっての輝きを見ても
僕は多分、何も感じない
孤独だと思ったことはないけれど
一人なのだとは、いつも思っている
僕の他に僕はいなくて
誰も僕と同じにはなってくれない
それなら
それが、正しい姿なのだと
何故気付けないままここまで来たんだろう?
僕は僕で、貴方は貴方
それでいいはずなのに
いつも僕は他人を傷付ける
言葉を胸に突き刺して、抉り続ける
繰り返してしまう
現実に殴るよりもそれは痛くて
立ち上がることすら出来ないほどに打ちのめすことも出来て
そんなサディスティックな快楽に浸りたいのだろうか?
言葉は刃
けれど、刃は傷付けるためだけのものじゃないし
切り裂くべきものは、誰かの心じゃない
それをいつも忘れてしまう
僕もまた、言葉で引き裂かれた心を持っているから
忘れてはいけないのは
言葉で背中を押されたことだというのに
言葉に手を取ってもらって、立たせてもらえた
少なくとも僕に向けられた言葉は
刃だけじゃなかったはずだ
今思い返すだけでも、涙が溢れるほどに
温かい言葉
それはまるで小さな炎のように
消えることなく 僕を照らす
燃え尽きるならそれがいい
最後の一片すら残さず灰になりたい
そうすればきっと それでもきっと
灰になっても、僕は書き続けると思う
灰は大地に還り、花を育てる
そうなりたい そう在りたい
余さず燃えた僕の灰を
誰かが花にしてくれるなら
枯れ木に花を一度でも、咲かせてくれるなら

それを託すことの出来る友達が
僕にはたくさんいる
縁の切れてしまった友達も
腐れ縁の友達も
僕は幸せ者だと思う
嘘じゃない
ただ、僕自身がその幸せを受け入れられるほどの
大きな器を持っていないだけだから
だから僕は言葉を使って
自分に火を入れるしかない
この世の中と相容れなくても
言葉を描き続けるしか
そうすれば きっと
僕が消えても
僕の友達は みんな
両手一杯の花束を持って
笑顔を浮かべてくれるはずだから

言葉の意味なんて、僕には分からない
分からないまま理由をつけて
分からないまま希望を託して
ただ、書き続けていく
いつか僕の両手が 喉が
疲れ果てて腐れ落ちるまで
白い紙を前にして
自分の中身を覗き込んで
言葉を、選び続けるしか。
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