un Bastardly Voice 01

 後悔だらけの毎日に
 痺れが走る充実感を。

 罪科に穢れたこの両手に
 金に輝く眩しき夢を


 今まで、僕は目を閉じる癖があった。
 今でもその癖は直ってはいない。
 人ごみの中、雑踏の中、無数のノイズの中、
 僕は今でも目を閉じる。
 今までは全てを遮断し、自分の中に閉じこもるため。
 今は、目から入る情報を遮り、外の世界の全てを感じるため。
 僕は今でも目を閉じる。
 少しでもたくさんの声を聴くために。

 価値がない日々に生きていた。
 価値があると胸を張って言うことが出来ずに、
 無価値と叫んで誤魔化していた。
 それじゃあ駄目なんだ。
 今でもこの日々は価値が無いけれど
 価値を得ようとするために、あえて
 無価値だと自分に言い聞かせる。
 この先、もっと先にこそ
 本当の価値が手に入るはずだから。

 謙虚な気持ちと
 傲慢な気持ちを
 無理に制御しようとするのではなく
 両方を素直に受け入れて
 自分を研ぎ澄まして行こう。
 夢の代価は、自分の決意。

 僕はいつでも切なくなる。
 彼女の目を思い出してみる。彼女の声を思い出してみる。
 そして、それが全て失われてしまったことを強く感じる。
 僕はいつでも切なくなる。
 閉じた瞼が震える。熱い雫が頬を伝う。
 彼女の仕草。その全てを僕は思い出すことが出来る。とても容易に。
 振り返ると彼女はそこに立っていた。
 なに?と小さく首を傾げる仕草が好きだった。
 伸ばした指先に頬を寄せる仕草が好きだった。
 僕は、彼女が好きだった。
 だから僕は切なくなる。
 彼女は、僕のことを愛すべき人としてではなく、自分の分身としてしか見てくれなかったのだから。
 僕は、それでも彼女を愛していたのだから。
 ……
 泣いて、泣いて、また泣いた。
 声が枯れるまで泣いた。
 涙が乾くことが無いほどに泣いた。
 哀しかったのか、寂しかったのか、それはもうどうでもいいことだ。
 ただ、僕は泣くしかなかった。
 君の姿はどこにもなく、僕はまだ君に伝えていない言葉が残っていたのだから。
 ……
 伝えることの叶わなかった言葉は、僕の中で膨れ上がり、やがて破裂してしまうだろう。
 でも、それでも僕は……
 伝えることの出来なかった言葉を、捨てられずにいる。
 ……
 いつか、それが例え夢の中でも構わないから、僕はこの言葉を君に伝えたいと願う。
 そして祈る。
 君の最後の表情が、笑顔だったと。そう、自分勝手に想う。
 最後の瞬間、君は僕に背を向けていた。
 背中越しの言葉は決して温かくはなかったけれど、それでも君は微笑んでいたと信じる。
 そうでなくてはいけない。
 僕は君を愛していた。君は誰も愛せなかった。
 だからこそ、笑わなくてはならない。
 僕の言葉が、君に笑顔を与えらるものでなくてはならない。
 それは、この切ない日々の中で唯一残る、微かな真実。
 愛という名の、偽りの無い、事実。
 僕は切なさを抱いたまま、日々を流れる。
 君はもう、この世界を見ることは出来ないから。
 僕はもう、君に会うことすら出来ないのだから。

 今まで、僕は心の中だけで叫んでいた。
 張り裂けてしまった想いを、自分の中だけで暴れさせていた。
 でも、それじゃあやがてこの小さな僕自身が壊れてしまっていただろう。
 僕はもう、迷わない。声を出すことを。
 諦めない。この叫びは絶対に届くと信じる。
 届けられると、確信する。
 僕は今、世界に向かって叫びを上げる。
 魂の奥底から湧き出る言葉を、声に出して叫ぶ。
 誰に届くとか、どこに行き着くとか、そんなことは知らない。
 でも、その行為には意味がある。
 純粋な魂は、純粋な叫びを上げて、自分を世界に示す。
 忘れていた手段を、また一つ僕は思い出した。

 僕は恐れていた。だから目を閉じた。
 怖くて、本当に怖くて、どうしようもなくて……
 閉じた瞳から流れ出る涙だけが、ささやかな自己主張の証だった。
 掌はきつく締められ、震えることも許されなかった。
 本当は、声を出してしまいたかったのに、僕は目を閉じていた。
 それだけだった。
 寄せては返す波のような感情が、とても怖かった。
 耐えることなんて出来なかった。
 僕は、あの時どうすれば良かったのだろう。
 正解は、今でも分からない。

 恐怖する瞬間。
 自分に恐怖する瞬間。
 今までとは違う、新しい自分に
 素直に恐怖する。
 自分の可能性に
 背筋が震える瞬間。

 俺には悪い癖がある。
 始めてしまったことを、途中で止めてしまう癖だ。
 始めてみなければ何も分からない。それは重々承知している。
 でも、始めて少し経つと、先が見えてしまう。
 俺はいつでもそこで止まってしまう。
 終わりが見えると、途端に興味を失ってしまう。
 本当は、最後まで駆け抜けてみなくては何一つとして得られるものなんて無いのに。
 分かっているのに、途中で止めてしまう。
 それが、俺の壁だ。
 今、それを一つずつ突破していこうと決めた。
 今までの全てを突破して、それから
 新しい何かを得ようと覚悟した。
 こうなった俺は、弱くはない。
 そう信じている。

 本当に面白い話を書こう。
 本当に、僕が描きたかった物語を記そう。
 僕が望んだ彼女に、理想の僕と出会ってもらおう。
 これは妄想だ。でも
 本当に面白いと感じることの出来る話を書こうとすれば
 妄想や幻想が一番の近道なんじゃないかと思う。
 例え誰が認めてくれなくても
 面白いと感じることの出来る、そんな物語…

 明日の決意は決意じゃない。
 そう言われた。
 決めたことは、今すぐにでも始めるべきだ。
 そうでなくては、この熱も冷めてしまう。
 温め直した気持ちは、熱しきった時の気持ちとは
 完全に別物なのだから。
 熱を失う前に、やるべきなんだ。

 誰もが
 暴れ出しそうな衝動を抑えきれず
 その矛先をどこに向けて良いか分からず
 悩んで、悔やんで、苦しんで、叫んで、涙して、絶望して、諦めて
 そして自分をすり減らして
 この世界で生きている。
 だからこの世界は美しい。

 少しだけ ほんの少しだけでも
 貴方が自分のことを認め、許し、愛することが出来たなら
 目に写る光景は色を鮮やかに変え、風は今までとは違う歌を唄うだろう。
 そうして見上げた空は、きっと何よりも青い。
 それがこの世界の価値。

 自分を罪人だと罵るのなら
 本当に自分が罪人だと思うのなら
 自己嫌悪の渦の底に沈んでいるだけじゃ駄目だ。
 罪人にはいつだって、その罪を償う手段が用意されている。
 罪を知っているからこそ、出来ることがある。
 罰を受け続ける覚悟をしよう。
 いつかまた、笑える日が来ることを祈ろう。
 そして僕らはまた立ち上がる。
 足に纏わりつく泥のような記憶を引き摺りながらも。
 いつか夢見たあの場所を目指して歩き出す。
 
 どこが自分の原点なのかなんて、分かりゃしない。
 一つだけ言えることがあるなら
「僕はたくさんの人達に作り上げてもらった」
 ということだけだ。
 本当に、感謝している。

 僕のことを信じてくれている人が、ほんの少しだけでもいるから。
 本心で僕を信じてくれる人達がいるから
 僕は迷わずに飛び続けることが出来る。
 背に負う翼は罪に穢れてしまっても
 傷つき疲れ果てたとしても
 恐れずに羽ばたくことが出来る。
 とても小さな翼だけど、きっと、きっと、
 この先まで僕を運ぶことは出来るはずだから。

 昔、この世界はとても情熱に満ちていた。
 今、僕らの生きる時代は、クールに生きることが素晴らしいという世界になってしまった。
 どちらがただしいのか、それは分からない。
 でも、僕は今の世界をつまらないと感じてしまう。
 だから僕は、僕だけは、
 この冷めた世界を情熱に満ちた眼差しで駆け抜ける。

 結局ここから逃げ出したとしても
 何が変わるということはない。
 どこに行っても同じことを繰り返すだけ。
 だったら僕はここが良いと思った。
 たくさんの笑顔と向かい合うことの出来る、
 この場所がいいと思った。

 向かい合うことが必要だったのかもしれない
 逃げ出すことは簡単だし、顔を背けることだって難しくはない。
 守るべきなのは自分じゃない。
 本当に守るべき何かをはっきりとさせるべきだ。
 それがあれば、僕らは真っ直ぐに立つことが出来るはずだから。

 思い出してしまったからには、止まれないことがある。
 僕は自分の本当の名前を思い出してしまった。
 過去、どんなことがあって何をどれだけ強く望んだのか
 それを思い出してしまった。
 どれだけの人と出会い、裏切られ、傷つけ、失望させてきたのか。
 何人の願いを踏みにじり、自分を守り続けてきたのか。
 彼女の言葉を、どれだけ受けて育ったのか。
 思い出してしまったからには、もう止まれない。
 本当の、自分の衝動の矛先を
 欲求の原動力を 現在の罪を
 連綿と続く喜ばしき苦難を
 思い出す。

 鈍い頭痛と共に僕は生きてきた。
 厄災と同等に扱われてきたこの僕の今まで。
 振り返ろうとして、止める。
 どうせたいしたことは無いのだから。
 鈍い頭痛は繰り返し僕を苛んでも
 僕は耐え続けるだろう。

 途切れること無く繰り返される
 この夜の
 その唯一の出口 満月。
 僕はそれを見上げる。
 泣けない涙と 渇いた嗚咽と 震えない慟哭で
 僕は月を見上げる。
 退屈なだけじゃない。苦しいだけじゃない。
 許せないだけだ。
 この夜に身を任せて、眠っているだけの
 無残な僕の姿が。

 だからこの詩は無価値ではないと叫ぶ。

 言葉がその輝きを忘れてしまった夜
 一人で小さく震えていた夜
 僕は狂ってしまいそうなほどの
 できそこないの歌を聴いていた。
 言葉の輝きは失われても
 旋律の響きは逃げ出してはいない。
 それだけが救いだと思った。

 居たくもない場所で、歯を食い縛って真っ直ぐに立って
 反吐を吐きながら、喉を嗄らして叫んで
 そこで認めてもらったとしても
 全然嬉しくなんてない。
 俺は、俺の望む場所で
 誰か一人だけでも構わないから
 声を聞かせてもらいたいだけ。
 それだけだ。

 壊れた言葉が滑り落ちて
 湖面に波紋を残して消える。
 喉の奥から湧き出る祈りが
 空気に触れて、儚く消える。
 だから僕らは続けよう。
 言葉を残し続けよう。

 キミのその言葉で俺の気持ちを打ち砕いてくれ。
 情けないままの俺の、弱い部分を。
 逃げ口上だけ上手くなってゆく、無残な俺を。
 そして
 作り上げてくれ。
 本当の強さと祈りの意味を知っている
 俺の望む俺を。

 いつだって中途半端に完璧主義な俺は
 失敗してしまった道をまたなぞって
 少しずつでも前に進もうとしていた。
 でも、そんな速度じゃあもう足りない。
 届かない。
 傷ついたままでも、走り抜けられるような
 必死さが欲しくなってきた。

 この光の下じゃあ駄目だ。
 この偽物の光の下じゃあ、俺は輝けない。
 偽物の光の下で偽物の俺だけが輝いても
 何の意味もないじゃないか?
 夜にだけ輝く冷たい太陽の光を浴びて
 本当の姿で、輝きたい。

 俺のこの胸の真ん中には
 今も大きな穴が開いている。
 でも、その穴からはいつでも
 素晴らしい言葉が湧き出てくる。

 哀しむことが必要だったのかもしれない。
 無為な日々に身を堕とすことも必要だったのかもしれない。
 死んでしまうまでに後悔をすることも。
 そう思って今、また僕は立ち上がった。

 そんな言葉は飲み込んでくれ。
 それから先は言わないでくれ。
 貴方の口からそんな台詞を聞きたくはない。
 貴方の情けない部分なんて見たくはない。
 ただ、強いだけの貴方でいて欲しい。
 弱音を吐くのは、俺が全て担当しているはずだから。
 強いだけの、貴方でいてくれ。

 この気持ちの裏にこびりついている
 黒い感情だけは隠し通さなければならない。
 でも、それは本当の俺が刻んだ
 純粋なまでの叫び。
 隠し通さなければならない。でも
 消し去ることは出来ない。しない。
 本当の自分までを偽ることは許されないから。

 一つになることのなかった二つのシルエット。
 二つになるしかなかった二つの心。
 一つに重ねて壊れた、二つの夢。

 理由なんてない。
 理由なんて分からない。
 僕は泪する。
 蒼くて透明なこの夜に
 月を見上げて泪した。

 声も出せないほどに打ちのめされて
 誰にも理解されることがなくても
 僕はそれでも、まだここにいる。
 ここに居続ける理由なんて
 とっくの昔に無くなっているのに
 僕はまだ、ここで立っている。

 月夜を名乗っている俺は
 自分で光を放つことが出来ない。
 でも、もし本当の、名前も持たない自分が
 強く輝いているのなら
 俺は月夜のままで輝ける。
 もしくは
 月の光で輝く月があったって
 構わないじゃないか。

 無責任にはなりたくない。
 その気持ちだけで僕は
 ここまで来れたから。

 何か、何でもいいから
 言葉にして残しておきたいと思った。
 僕は、ずっとその場所を探していた。
 出来合いの世界の中に……
 でも、気付いた。
 他人の掌の上でなくても
 僕には言葉を残せる場所があることに。
 だから、僕はもう
 迷わない。
 
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