un Bastardly Voice 03

時間 に追われて
自由 を見失い
本当 という言葉に惑わされる
本気 の在り処を見つけられずに
言葉 だけが空回りする
未来 は未だ闇に閉ざされ
希望 なんて都合の良いだけのものはなく
明日 やると言い訳を並べて
今日 を泥のように生きるのなら

価値の有無なんてどうでも良いと叫んでしまえ。


結局のトコロ…
僕らの歌う歌なんて誰に聴いてもらえる訳でもないし
でたらめの歌に価値なんて無くて
あえて耳を傾けようとするような物好きすらいない
でも、僕らはそれでも 歌い続けるだろう
僕らにはこれしか残されていないのだから
他のことなんて、何一つとして望みはしなかったのだから


憧れるだけの英雄はいらない。
昔、どこかでそんな台詞を聞いた。
でも、本当にいらないのは
憧れるだけで止まってしまう自分じゃあないだろうか?
憧れて、そこに辿り着き、その先に到達しようとする自分。
それが、本当に必要なものなのではないだろうか?
惜しまれながら死んでゆく英雄を
その最後の場所を、僕らは越えて生きて行く。


焦りや苛立ちが消え
腹立たしさや怒りも消え
ただ 穏やかなだけの時間に身を任せる。
それでも良いと一瞬でも思った自分が、許せない。
この胸の真ん中に今でも開いている、虚無の大穴。
それを放置したまま生き続けるなんて、認めない。
この穴を埋めるため、または
この穴から何かを引き出すために
俺はあえて
焦燥と苛立ちの日々を続ける。
終わりの無い、拷問をあえて受ける。


彼は月夜に星を視る。
それが、俺の名前。
特別な思い入れとか、名前の由来とか、そういうことはどうでも良い。
月夜の中にあって、星を探して見上げるような
そんな俺の有り様が現れている
ぴったりの名前だと思う。
結構気に入っている。
しとしとと、音を飲み込みながら一日降り続いた雨が上がり
空からは雲が消えた。
夜。冗談のように澄み渡った夜。
思いがけない明るさに窓を開けると、大きくて丸い銀色の月。
太陽よりも静かに染み渡るその輝きに魂を奪われ
瞳からは涙が零れてしまう。
たまらず、外に飛び出す。
そして、月に背を向ける。
その冷たいのに熱い光を体中に満たすために。
閉じた瞳を開けて、蒼い夜空を見上げ
星を視た。
背に月光。瞳に星明り。
蒼く透明な夜に立ち尽くす、俺の姿。
彼は月夜に星を視る。
それは、俺の有り様を如実に現した、俺の本当の名前。


この旋律を奏でよう。
方向性も定まらず リズムさえもでたらめな
この旋律を奏でよう。
誰のためでもなく 自分自身のためでもなく
言葉でなく 声でなく 音でもない
この旋律を奏でよう。


あれから一年が過ぎて……
夏の匂いがまた、微かに近付いてきた。
でもそれはまだ遠くて、僕の元に届く頃には薄くなってしまう。
薄まって、春の匂いになってしまう。


空を見上げ 失われた青さに涙する
夜空に星を探し 黒さに震える
夕暮れに月を求め 藤色の世界に声を上げる
過去にキミの姿を見付け 僕は涙も出ない

澄んだ空気に包まれた僕は
穢れを忘れることは出来ない
世界は偽りの夢で構築されているとしても
やはりそれは 夢なんだ。

瞼を閉じて 耳を凝らすと
あの頃聴こえた 蝉の声が聴こえる

冷たい夜に踊り出し
僕はアスファルトを蹴りつける
唾を吐き 掌を握りしめる

ここにはまだ、夏の匂いが届かない


背筋を走る、寒気にも似た痺れ。
素晴らしい話を読んだときにのみ得られる、快楽。
それは、今までその話が与えてくれたものだと思っていた。
でも、違ったんだ。
この心地良い恐怖は
俺の中から溢れてくるんだ。
刺激を受け、湧き出てくるんだ。


俺が手に入れることが出来るものは、もう限られている。
もしかしたら、最初から選ぶ余地なんてなかったのかもしれない。
それに気付くのに、とても長い時間がかかっただけで…
真夏の太陽の下に踊り出すような、満面の笑顔は得られない。
春風に吹かれ、思わず瞳を閉じるような瞬間も得られない。
真冬の朝の空気のように、どこまでも澄んだ純粋さは求められない。
俺が手に出来るのは
秋の夜空に輝くような、銀色の月の光。
昼よりも薄く、朝よりも弱く、夕暮れよりも淡い
夜の光。
太陽の光を跳ね返す、それだけの月。
俺が手に出来るのは――
泥の中から伸ばした掌に触れた、一欠けらの事実。
それだけだ。


この迷いを晴らしたまえ。
我を光で照らしたまえ。
違う。そうじゃない。
気付いてくれ。
迷いなんて初めからないということに。
光は、最初から貴方の背を照らしていたということに。


この世界で一番、冷たいラヴソングを歌う。


背に降り注ぐ光こそ 翼の糧
刃はその身に痛みを映し 初めて輝く
傷跡無き日々には
一片の価値も無い

衝動を抑えるず 束ねろ
欲求に逆らわず 矛先を決めろ
発想の引き金を引け 迷わずに
黒い天幕を貫き 蒼穹へと飛び出せ
翼の価値は 自らの価値と等価
自らの価値は 重ねた傷跡の数

自由に 自然に舞い上がれ
天へ
その声が世界の全てに届く場所まで
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