『この部屋満ちた黒い闇 抱いて静かに眠ります』

今日のこの夜明けたなら
去った貴方の残り香も
重なる日々が消すでしょう
月の形の硝子窓
差し込む光 色も無く
私の躰に残る痕
貴方の指の這った跡
忘れてしまえと呟いて
服脱ぎ捨てて 窓際で
硝子に写すこの姿
目を閉じ忘れ 消し去った
行く道照らした月光も
朧に霞み 姿無く
迷い子連れて導かれ
光は蝶の羽の粉
薄闇抜けて 見たものは
より濃い闇の 足の跡
貴方が行ってしまうから
私はひとり 部屋の中
色無い虹の風車
音無い壊れたオルゴール
埃にまみれたアルバムの
貴方の笑顔 今は無く
倒れた私に降り注ぐ
上がらぬ雨と蝉時雨
伸ばした指は空を切り
落ちたこの腕 砂と消ゆ
重ねた日々は白くなり
時計の針だけ山の程
過ごした部屋を見回せど
移ろう時の 影も無し
月の形の硝子窓
写る私は疲れ果て
泡と消えるは定め事
閉じた瞼に 闇 写る
二人でつけた足跡が
伸びる茨に覆われて
来た道すらも泡沫に
髪の長さは偽りに
背中を押した月光も
流れる雲と共に消え
いつしか空には何も無く
見上げた暗幕 穴も無く
貴方に縫ったヒトカタの
唇だけは鮮やかに
カタカタカタと鳴る鳥の
翼に刃 突き立てて
冷えた手温め奏でるは
五本の弦の三本目
爪剥ぐほどに 狂うほど
知らない音を続ければ
いつしか扉の鍵は開き
ここを去る刻来るのです

暗い扉のその向こう
夢見た景色は幻に
借り物の服 破り捨て
汚れた包帯取るのです
重ねた日々は哀しいと
眠る私の呟きに
静かに首を横に振り
見果てぬ景色 振り返る
夢見た日々の苦しさも
今となっては幻に
今日見る夢の鮮やかさ
不思議と苦しさ無いのです
堪え切れない衝動が
痩せた躰に染み渡り
驚くべきは我々の
呆れるほどの しぶとさひとつ
声の届かぬこの場所に
嘆くの止めて 諦めて
今見る夢は内向きに
激しさ忘れぬ穏やかさ
鈍い頭痛のその訳も
いつかは赦せるものならば
私は今はただひとり
眠らぬ夢の中にいる
望みと祈り尽き果てて
慰む自身 影 薄く
涙の訳を唄にして
聴こえぬ場所で 声 奏で
満ちたる月の創る闇
抱き締められて 今熱く
日々の欠片はさらわれて
何も残らず真白に
虚ろな姿 透明な
輪郭だけが舞い踊る
全て諦め投げ棄てた
過去も未来も閉じ込めた
そんな私に残ったものは 私の躰と白い紙
それはまるで、生きてきた証そのもののようで
白い紙を前にした私は 何を描こうか考えるだけで
胸が高鳴るのです

『デモ、鉛筆ガナイヨ』
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