『夏の予感』

雲が運ばれて来た
優しい風に
あの山の向こうから
太陽をそっと隠した 雲
途切れ途切れのその隙間から カーテンのように陽光が街を照らす
スモッグで煙る街並みを 淡く色付かせる
水色の空は 哀しみの証
僕は遠くから街を眺める
街と 空を眺めている
やがて空に雲は増え 暗く蔭ってしまう
太陽はまだ強く 空のずっと上で輝いている
街に影が落ちて 空はまだ明るい
雨の予感をさせながら 時間は穏やかに僕の前を過ぎてゆく
そして 夕暮れ
雲は徐々に薄くなり 太陽は色合いを変化させる
より濃く 力強く 眩しく 赤く
空の色が一瞬薄くなり 雲の縁は藤色に
青空と夕暮れの狭間の色
まばたきも出来ず 僕は見ている
哀しんでいる空がそれでも見せた はかない希望の色
力強い夕日の 手前の空
雨の予感は消えた
はかなくても忘れられない希望を目に焼き付けて
僕は夕焼けに背を向けて立ち上がった

蝉の声が一際強くなった昼下がり。
僕は草原に寝転がって、雨を待っている。
哀しいくらいに深い色合いをした青空。
水平線の辺りには入道雲が大きく背を伸ばしている。
夕立ちだったら降るかもしれない。降ってくれるかもしれない。
約束の時間はとっくに過ぎてしまっているけれど、僕は雨が降るのを待っている。
いつもよりも粘りけのある風が、珍しく海の匂いを連れて来てくれる。
胸いっぱいに吸い込むと、草と土と、汗の匂いもした。
目を閉じて、呼吸を繰り返す。
心臓の鼓動、風がゆっくり通り抜ける音、枝葉が擦れ合う音、たくさんの音に重なる、蝉たちの声。
旋律のような、雑音のような、合唱のような音たち。
足音は、聴こえない。
雨粒が草原を叩く音も。
瞼を開くと、空は真っ白に見えた。
日差しに焼かれた目が、涙を流してしまう。
にじんだ空から、まだ雨は降らない。
約束の時間を過ぎて、僕は一人
雨を待っている。
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