『残影/虚像』

波打ち際に咲く無数の掌
流れる血の色をした空と
戯れる子供の泣き声と
十二時過ぎに鳴る鐘の
足跡黒くどこまでも
吹き抜ける風はただ渇き
娘は足に釘を打つ
布の細工のグラデーション
肉の断面より白く
鏡に映った狂の顔
写真に収めてあげましょか?
ああ 歯車の音が聴こえる部屋で
貴方といつまで指絡めて
出来損ないの玩具と 壊れかけた時計で
眠くなるまで踊りましょう

闇に波紋が走るのは
暗く静かな夜のこと
棘の如き貴方の言葉
消し去るのもまた夜なのです
刹那に光る燐光が
瞬きする間に幻に
朧な影に溶け出して
かきむしる傷 尚深く
砂踏みしめて立つ夢の
花弁の一つ 懐に
真ん中走るぎざぎざに
そっとヤサシク口付ける
幾可学模様の縞々の
淡く乱れた薄闇を
一際暗く また暗く
風鳴る音が唄のよう
爪 口 足と染み渡る
夜打つ波紋 ああ 清く
命の残滓よふよふと
流れる雫 ただ緋く
貴方の告げたさよならに
こうして応じる夜なのです

夜空に虹がかかる刻
貴方が口ずさむ曲
波に踊るは星の影
闇夜を満たすは海の影
過ぎ去る日々はただ早く
貴方の唄はただ軽く
流れる風の間隙に
小さく零れる水の音
重ね合わせた影だけは
夜になる度いたずらに
貴方の吐息と温もりを
こうして連れて来るのです
この 夜に

真白な日差しが見せる夢
キミという名の白昼夢
消え入るしぐさ ただ甘く
伸ばした指に風 絡む
降り注ぐのはセミの声
意識をみだす夏の声
キミを捜して駆け回る
愚かな僕を笑う声
道の向こうの陽炎が
僕を手招きするようで
動かぬ足を引きずって
キミの姿に手を伸ばす
遠のいていく旋律が
白昼夢へと引き戻す
繰り返される一幕は
笑ったキミの優しい姿
失うことをただ怖れ
伸ばさなかった両の手を
そっとこうしてもう一度
消え行く影に手を伸ばす

夜霧を仄かに照らすのは
いつでも音無き星明り
粉雪の如く降り積もり
夜空を蒼く塗り変える
深くて淡い月明かり
夜の境を縁取って
意志あるものも無きものも
等しく銀に染め上げる
夢幻の如く固まった
動無き景色の真ん中に
湖面は揺れることもなく
ただ沈黙を守るだけ
この幻を壊すには
たった一度の声で良い
分かっていれど動けない
軋む骨すら怖ろしい
震える背筋に忍び寄る
蒼と銀との霧たちは
私を嘲笑うかのように
動無き世界で舞い踊る
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