『虚ろの名』

その名を呼べと呟いて
消え行く姿追い求め
雫と霧の真ん中に
畏れることなく足運ぶ
形を与えられた虚無
逆らうことなく見詰めるは
潰れた影から沸き上がる
音という名の赤陽炎
痺れた指のその先に
燈る哀しみいつまでも
忘るることの叶わない
小さき虚無の存在感
唇なぞる舌先は
偽装の光吸い込んで
凍れる胸の真ん中に
糸より細い線を引く
狂・刻々と奏でるは
留まる時の波の紋
従うだけに在る虚無も
膝を叩いて歩き行く
その名を呼べと言いつつも
名もなき貴方の背は遠く
その名に意味を求めても
今在る言葉に例は無い
発音すらもおぼつかぬ
貴方の名前呼ぼうにも
音の木霊は虚無となり
響く山彦糸になる
広げた両手のその中に
見える景色は鏡面の
音のカタチのその声が
消えゆく日々を弄ぶ
回る月夜の騒動の
モノクロームの幻想は
真意を語ることもなく
真理を欲することもなく
湧き出る言葉歌にして
赤い虚ろの手を取って
痛みを移す短刀の
照らす刹那の享楽を
誰に伝えることもなく
その名は既に響きなく
歌に合わせて踊るのが
最後に残った夢なのです
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