『忘れる祈り』


 愛している君だから
 忘れてしまいたい

 この気持ちを届ける 言葉を探すように
 貴女の体を手で なぞる
 肩に唇寄せて 吐息を漏らす

 孤独に耐えられなかった
 壊れてしまいそうだった
 誰もがマネキンに見えた
 世界は偽物だった

 穏やかな光の中 君は少し照れて笑う
 それだけが僕は本物に見えたから
 僕は君を好きになった
 好きになれた 好きでいられた
 好きだった 今でも愛しているから

 ああ…… 貴女のいる場所 ここからは遠くて見えないけれど
 この声届けと叫び上げて
 喉が嗄れて 声がしゃがれて 歌がノイズになるまで

 月の無い夜に 二人だけの部屋の中で
 吹き消される寸前の蝋燭の火のように
 揺れて 熱く 汗を重ねて 掌絡めて
 愛している 愛していると はっきりそう言いたいのに
 僕の気持ちを受ける君の喉からは
 悲鳴のような声しか聴こえない

 ちゃんと貴女を幸せにしたかったけど
 それは僕の役目じゃない
 君は自分自身で幸せを探す
 そう そしてきっと孤独になる

 君が孤独に負けたなら またここに戻って来て欲しい
 でも僕はもう分かってるんだ
 君はそんなものに 負けはしない

 優しかった 温かかった 受け入れてくれた 赦してくれた
 僕を真っ直ぐに 僕をしっかりと 見詰めてくれた貴女

 夜を飛び出して
 朝が訪れるまで
 喉が嗄れても
 ノイズになっても
 この声を叫び続けるよ

 愛してた 愛している
 今でも変わらず 今でも育ってる
 見えない貴女の残像に
 伸ばした指先が触れない

 気付いていたんだね
 僕が誰も愛せないことを
 でもね 君は勘違いしていた
 愛せないんじゃなくて
 愛せなかっただけ

 君だけは愛することが出来た
 でもそれも偽りだったのかな?
 今でも眠れない夜には
 君のことを想うよ

 貴女のくれた言葉に 僕は応えられるだろうか
 貴女のくれた気持ちを 僕は
 永遠に出来るのだろうか?
 貴女のいない世界で 僕は 生きてゆく
 貴女のいない記憶を重ねて 僕は
 夢に手を伸ばしているよ

 愛し続けている君だから もう 忘れてしまいたい
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