岐路


迷いながら進んできた
足跡は曲がりくねって
行く先すら決まらず
途切れ途切れで
振り向けば 見えるのは
色の消えた景色

過ぎ行くときの間で
口ずさんだ幾つもの歌
か弱く細い旋律は
いつも届かないまま
古い日の約束のように
ただ 消えて行くだけ

同じ道を歩く友よ
その背をひたすらに目指して
僕は
細い足を進める

掌に舞い降りた
一片の花弁が
幻のように消えて
小さな雫になる

繰り返し 繰り返し
巡り行くときの間で
彼女が唄った歌に
揺らぐ心の頼りなさを
僕はただ 叫ぶしかなかった

痛いほどに世界を叩く
幾億の雨粒に
両手を広げて 目を開けて
一歩を確かに 進める

こうして岐路に立つと
いつも足が止まる
確かな道など どこに?
目を閉じて 開けたなら
前にしか 道はない

一度だけ触れた掌の
その温もりを覚えているから
だから僕は
いつまでも これからも
狂おしい欲望に侵される

貴方の見てきた景色
貴方の刻んだ足跡
僕はそれを見て ただ
追いつきたいと
そう 決めたから

今貴方が見ている景色を
僕はいつ見れるのだろう?
僕が見た 色のない景色を
貴方は見たことがあるのだろうか?

真っ直ぐに続く足跡を
追いかけてきた
小さく見える その
とても大きな背中を
僕は岐路に立ち 戸惑う
振り返り 想う
過ぎた道に立っていた
たくさんの笑顔を

腕の中に 君の幻影
曖昧な記憶の中でも
君はただ 笑う
僕を見上げ 様子を伺うようにして
深呼吸を済ませたら
弾けたように 笑うんだ
だから僕は

迷いながら 歩いてきた道を
僕は 誇りに思えない
残してきた人がいた
振り切った言葉があった
忘れられない出会いもあった
楽しいこともあって
だから 辛いお別れもあって
だから だから
僕はいつでも 後悔を積み重ねながら
足を 上げる

色を失い 輪郭も溶け
声は届かず 温もりは風にさらわれて
僕の辿った道筋には
何も残るものはない

目の前には 彼の足跡
岐路に立ち 僕は
途切れることない言葉を探す
いつかあの人が聴かせてくれた
とても ヤサシイ歌の中から

続いて行くものは
必ずあるのだから

その背中を追うのだと 決めたのだから

そしていつか 彼の隣を歩けたら 僕は
僕の全ては やっと
そこから始まる

超えてきた岐路の その先に
僕の迷いの価値が 全て
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